ryujimiyaの日記

C#を使って数値解析したい

時間領域FEM(1次ABC)による誘電体スラブ導波路(TMモード)の終端の反射係数の計算

1. はじめに

誘電体スラブ導波路を終端し、TMモードを入射したとき終端から反射される波を時間領域FEMでシミュレーションしました。

この記事では2種類のケースを考えます。

(ケース1)平行平板誘電体スラブ導波路

図の1 - 8及び2 - 7は電気壁として計算します。1 - 2、7 - 8にはABC(吸収境界条件)を適用します。

(ケース2)開放形誘電体スラブ導波路

1 - 8、2 - 7、1 - 2、7 - 8すべての境界にABCを適用します。

 

適用するABCは次式です。

1 - 8、2 - 7、5 - 7、8 - 10

    ABC for Traveling Wave:

    { d/dx + (1/c)(d/dt) }u = 0  (d:偏微分、c:速度)

 1 - 10、2 - 5

    ABC for Evanescent & Traveling Wave

    (d/dx + a){ d/dx + (1/c)(d/dt) }u = 0  (d:偏微分、c:速度、a: 減衰定数) 

 

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W:解析領域の幅、Wc:コアの幅とし、コアの屈折率n1 = 3.60、クラッドの屈折率n2 = 3.24、空気層の屈折率n0 = 1.0とします。また規格化周波数Fを

Fn = 2W √(n1^2 - n2^2) / λ

とします。

3 - 12は、時間領域FEMで励振する境界で、Y方向の分布はFn = 0.75のときの基本TMモードのモード界分布を用います。また時間変化は正弦波変調ガウシアンパルスを用います。

4 - 11はポート1(入射側)、6 - 9はポート2(出力側)の界観測面です。

観測面の時間変化界h(y, t)をフーリエ変換してH(y,Fn)を求めますが、複数のモードが伝搬モードなので基本モードに関する振幅を計算するためには、各周波数Fnのときの基本モードの界分布を計算しモードの直交関係を利用してモードの振幅を得る必要があります。

 

2. (ケース1)平行平板誘電体スラブ導波路の終端

Wc = (4/30)Wの場合について計算します。

まず3 - 12に励振する基本TMモードの界分布を次に示します。

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時間領域FEMの計算結果を次に示します。

入射

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終端から放射

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反射

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終結

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Fが0.50~1.00のときの反射係数S11|を計算した結果、0.5~0.6の間を推移しており、何箇所か共振が見られます。

比較のため、モード展開を用いた周波数領域FEMで同じ問題を解いた結果を次に示します。

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なお、この計算のベースとなる直線導波路の時間領域FEMの計算結果を次に示します。多少の誤差を含んでいることがわかります。 

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【追記】上記の時間領域FEMでは入出力とも1次ABCを適用しましたが、周波数領域FEMで計算した|S11|の周波数特性と比べると差異が見られます。そこで、出力側(空気層のみ)だけ5次のABCを適用して|S11|を求めてみたところ、周波数領域FEMの結果とおよそ一致しました。導波管のモードは1次ABCでは十分でないようです。

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3. (ケース2)開放形誘電体スラブ導波路

(1)Wc = (4/30)Wの場合について計算します。

まず3 - 12に励振する基本TMモードの界分布を次に示します。

開放形の基本モードを計算する必要がありますが、ここでは無限要素を用いています。

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時間領域FEMの計算結果を示します。

入射

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終端到達

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放射(1)

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放射(2)

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反射(1)

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反射(2)

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終結

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ケース1と比べると、放射波がコアの終端を中心とした円に近くなっており、開放形のシミュレーションができています。

また反射係数もほぼ|S11| = 0.5前後で一定しており、ケース1で見られたような共振はありません。

文献[1]によると|S11|=0.52 (|S11|^2 = 0.27)であり今回のシミュレーション結果とほぼ一致しています。

なお、この計算のベースとなる開放形の直線導波路を時間領域で計算した結果は次の通りです。やはり多少誤差を含んでいると見た方がよさそうです。

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(2)Wc = (8/30)Wの場合について計算します。

 

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もっと解析領域を狭めた時の計算結果をしめします。

まず励振する基本TMモードのY方向分布は次の通りです。領域を狭めた分だけ両端でもある程度のEvanescent Waveが残るのでEvanescent Wave ABCの適用が有効になります。

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時間領域FEMの計算結果を示します。
 入射

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終端到達

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放射

f:id:ryujimiya:20191014230908j:plain

反射(1)
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反射(2)

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終結

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(2)の結果は(1)と同じく|S11|= 0.5前後をフラットに推移しています。
なお、この計算のベースとなる開放形直線導波路の計算結果は次の通りです。

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4. まとめ

時間領域FEM(1次ABC)を用いて、誘電体スラブ導波路を終端したとき、TMモード入射時の反射係数をシミュレーションしました。

- 伝搬モードが複数あっても散乱係数を計算できました。

- 誘電体導波路のように異なる媒質が分布している入出力に対してもABCは波の吸収に成功していました。

- 開放形導波路には、Evanescent & Traveling ABCが有効であることが確認できました。

[1]

G. Latsas, A. B. Manenkov, I. G. Tigelis, E. Sarri

"Reflectivity properties of an abruptly ended asymmetrical slab waveguide for the case of transverse magnetic modes"

http://www.control.ece.ntua.gr/papers/89.pdf

Journal of the Optical Society of America A Vol. 17 No. 1, January 2000