ryujimiyaの日記

C#を使って数値解析したい

WE-FDTD(波動方程式FDTD)によるH面誘電体装荷共振器の散乱係数の計算

FDTDというとマクスウェルの方程式にそのまま時間、空間について中央差分を適用して離散化しますが、マクスウェルの方程式から磁界または電界を消去することで得られる波動方程式に差分法を適用する方法もあるようです。波動方程式に基づくFDTDということで、WE-FDTD (Wave Equation Finite Difference Time Domain)と言うようです。

2次元の問題だとEzまたはHzのみの波動方程式を扱うことになるので

 ・電界、磁界の”双対な”格子を構成しなくても1つの格子で計算できる?

 ・未知数は2次元の場合、1変数で済むので1/3のメモリ節約になる?

という希望を持ちました。しかしながら、実際定式化を確認するとそう単純ではないようです。

先ずは、ベーシックなWE-FDTDを実装してみました。吸収境界条件はMurの吸収境界条件を使用します。

WE-FDTD (TMz)

 Ez(i, j)n+1 = c1(i, j) Ez(i, j)n + c2(i, j)Ez(i, j)n-1

    + c3(i, j) { Jz(i, j)n+1 - Jz(i, j)n-1 }

    + c4(i, j) { Ez(i + 1, j)n + Ez(i - 1, j)n + Ez(i, j + 1)n + Ez(i, j -1)n  }

 c1(i, j) = 4ε / (2ε + σ⊿t) - c4(i, j)

 c2(i, j) = - (2ε - σ⊿t) / (2ε + σ⊿t)

 c3(i, j) = - ⊿t / (2ε + σ⊿t)

 c4(i, j) = 2 (⊿t)^2 / { μ (2ε + σ⊿t) (⊿l)^2 }

誘電体損失のない場合σ = 0より

 c1 = 2 - c4

 c2 = - 1

 c3 = - ⊿t / (2ε)

 c4 = (⊿t)^2 / { μ ε(⊿l)^2 }

となります。

1つ前及び2つ前の時間の電界が必要となるので、必要な計算機容量は3成分(Ez, Hx, Hy)の標準FDTDとあまり変わらない感じです。ただ、格子は電界の格子だけを考えればよいので少し楽になります。(補足:電界の格子だけで済むのは、Murの吸収境界条件を適用する場合です。PMLを用いた場合は、補助変数の割り当てに双対な格子を導入する必要があります。)

参考文献:

K. Ichige and H. Arai

"An Efficient Algorithm of 2-D FDTD Method Based on Finite-Difference Approximation of Wave Equation"

http://ap-s.ei.tuat.ac.jp/isapx/2000/pdf/1F4-3.pdf

Proceedings of ISAP2000(2000 International Symposium of Antennas and Propagation), Fukuoka, Japan, Aug. 2000.

園田 潤

"高次 FDTD 法とクラスタを用いた並列計算による大規模電波伝搬解析に関する研究"

http://magnet.cneas.tohoku.ac.jp/satolab/theses/sonoda_PhD_thesis.pdf

東北大学大学院 環境科学研究科 博士学位論文

2005年9月

2.2.2.1 WE-FDTD 法

 

TMzモード(電界はxy平面に存在)のサンプルとして、TE10モード入射時のH面導波管誘電体共振器を解析してみました。このモデルは下記で計算したものと同じです。

 FDTDによるH面誘電体装荷共振器のSパラメータの計算(4) -単一軸完全整合層(UPML)を用いた場合-

 http://ryujimiya.hatenablog.com/entry/2013/04/20/021402

 FDTDによるH面誘電体装荷共振器のSパラメータの計算(3)

 http://ryujimiya.hatenablog.com/entry/2013/04/18/003026

図面(誘電率分布)

f:id:ryujimiya:20130426000957p:plain

散乱係数の周波数特性計算結果

 強制電流源でガウシアンパルス、微分ガウシアンパルスをx = 0の境界から入力します。(電界を付加励振する方法はよくわからないので、簡単そうな電流源Jzを用いました。) なお、励振するパルスの界分布はTE10モードの分布とします。

ガウシアンパルス入射時

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微分ガウシアンパルス入射時

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Murの境界条件に使用する位相速度vpは2W/λ = 1.5のときのTE10モードの位相速度を使用しています。そのためか遮断周波数付近、及び2W/λ = 2.0以降で計算結果に劣化が見られますが、特性の傾向としてはFEMの結果とおよそ一致していると思います。

ソースコード

 main_we_mur_wg2d_problem01_2.m

 https://gist.github.com/ryujimiya/5460143

 we_mur_wg2d_dielectric_filter.m

 https://gist.github.com/ryujimiya/5460127

 we_mur_wg2d_straight.m

 https://gist.github.com/ryujimiya/5460117