ΓM導波路(W3)の固有値解析と90°ベンドの伝送特性計算
三角形格子のフォトニック結晶で、Γ-M方向に欠陥を設けた導波路として以前CROWを計算しました。CROWの場合、欠陥は1列だけでしたが、もっと欠陥を増やして共振器でなく通常の導波メカニズムで伝搬可能な導波路も製作されているようです。
引用元
(1) Ya-Zhao Liu, Rong-Juan Liu, Shuai Feng, Cheng Ren, Hai-Fang Yang, Dao-Zhong Zhang, and Zhi-Yuan Li
"Multichannel filters via -M and -K waveguide coupling in two-dimensional triangular-lattice photonic crystal slabs"
http://optics.iphy.ac.cn/nb/l01.pdf
Applied Physics Letters 93, 241107(2008), 16 December 2008
この文献では"Γ-M導波路"と称してΓ-M方向に3列の欠陥を設けた導波路(W3導波路)が紹介されています。
また、Γ-M導波路とΓ-K導波路を組み合わせたベンドの構造を提案している文献もありました(同じ研究グループのようです)。
(2) Zhou Chang-Zhu, Liu Ya-Zhao and Li Zhi-Yuan
"Waveguide Bend of 90° in Two-Dimensional Triangular Lattice Silicon Photonic Crystal Slabs"
http://cpl.iphy.ac.cn/EN/article/downloadArticleFile.do?attachType=PDF&id=33355
(googleキャッシュ)
CHIN. PHYS. LETT. Vol. 27, No. 8 (2010) 084203, August 2010
ここでは、これら文献で取り上げられているΓ-M導波路をFEMで計算したので掲載します。
三角形格子の格子定数は a = 430 nmで、エアホール型のフォトニック結晶とし、エアホールの半径は r = 0.28 a です(文献では120 nmとなっています)。
文献では数値計算だけでなく実際に導波路を試作しており、実験結果も載っています。数値計算は3次元モデルをFDTDで計算しているようですが、ここでは2次元問題として等価な基板を屈折率を仮定して計算しました。文献を読むとごく一般的なSOI基板(屈折率3.4)を使用しているという記述があるので、今回のFEMによる計算では等価屈折率として n = 2.8と仮定しています。
エアホール半径 r = 0.28a 、 基板屈折率 n = 2.8のときのフォトニックバンド図は下記の通りでした。(フリーソフト「PHバンド」を使用)
PHバンド:http://www.vector.co.jp/soft/win95/edu/se151211.html?ds
フォトニックバンドギャップはa/λ = 0.253~0.313のようです。一方文献(1)では、Γ-M方向のフォトニックバンドギャップはa' = √3 a (= d)として、a'/λ = 0.45~0.54 とあり、これはa/λ = 0.260~0.312に相当します。
Γ-M導波路の固有モード計算
固有モードは、PBG内に4つありました。
1次モード(偶モード)
2次モード(奇モード)
3次モード(偶モード)
4次モード(奇モード)
引用文献(1)のFig.2(a)に3次元モデルでのシミュレーション結果が載っています。今回の計算結果と同じく4つのモードがあり、その分散カーブの傾向はよく似ていることが確認できます。周波数帯は、2次元計算に落としていることと、等価屈折率を厳密に3次元から換算したわけではないのでずれていますが、ここではこのままの仮定で計算を進めることにします。
Γ-K Γ-M導波路の90°ベンド
文献(2)で取り上げられている90°ベンドをFEMで計算してみました。文献(2)では、3次元計算されていますがここでは固有モード計算と同様に2次元に落として計算しています。
文献(2)のFig.2にベンドの写真と挿入損失の周波数特性(シミュレーションと実験結果)が載っています。Fig.2にあわせてΓ-M導波路の長さを5a' (a' = √3 a)としています。
散乱係数の計算結果
文献では、通過帯域がλ = 1545 nm (a/λ = 0.278)からλ = 1515 nm (a/λ = 0.284)となっています。今回の計算結果では、0.276~0.282あたりに対応する通過帯域が確認できます。また、文献ではλ = 1630 nm (a/λ = 0.264)、λ = 1600 nm (a/λ = 0.269)、λ = 1580 nm (a/λ = 0.272)に共振点があるようですが、今回の計算でも近い位置に共振点があることを確認できます。
Γ-M導波路の広帯域化
文献(1)ではΓ-M導波路のエアホールサイズを調整することで帯域を広くできることが示されています。そして、文献(2)では、その方法を90°ベンドにも適用してベンドを最適化しています。
今回は、文献(2)のFig.4のr2 = 170 nm (0.40a)とr2 = 190 nm(0.44a)について計算してみました。r2は2列目のエアホールの半径です。また、1列目のエアホールの半径r1 = 0.12a (52 nm) です。
※上記はr2 = 0.44aのときの図面です。
r2 = 0.40a( = 170 nm)の場合
r2 = 0.44a( = 190 nm)の場合
r2 = 0.40aと比べるとr2 = 0.44aの時の方が共振点が少なくなるようです。また今回の計算では通過帯域は、a/λ = 0.275~0.277 (λ = 1563 nm~1552 nm)、a/λ = 0.280~0.285 (λ = 1535 nm ~ 1508 nm)あたりが文献の通過帯域に対応してそうですが挿入損失は高めでした。
【2013-07-21】
境界上のdHz/dxの計算に誤差があったので修正し、散乱係数周波数特性を再計算しました。